空気銃が軽い音を立てると、命中した安っぽい玩具の盾が倒れる。
神童は子供の表情で、屋台の的打ちを楽しんでいた。こいつ幾つだよと内心突っ込みを入れながらも、夢中でたこ焼きを頬張っていては人の事を言えないが。
タイでの神童の字は、「トゥーハンド。」両手にべレッタM92カスタムを持つ、鬼人の如き凄腕のガンマン。
本職のガンマンが玩具の銃で心底楽しそうに遊んでいる様はシュール以外の何者でもない。左手で空気銃を扱うのを見て、こいつ左利きなのかと雄根は思った。初めて知った、神童の本当の利き腕。
「よっしゃ!3つめや。」
「本職の面目躍如ってとこだな。」
「当然や。ワイを誰だと思ってんねん。ま、こないな店本気出せば、3秒で店閉いやけどな。」
プロは素人には手加減せんとな。と、笑いながら神童は、新しく空気銃にコルクの弾を詰める。ふと黙り込んだ雄根を見ると、何やら思いつめた表情で空を仰いでいた。既に辺りは闇に包まれ、空気は昼の僅かながらの熱を奪い、冬の夜がやってきている。雄根の呼吸に合わせて、白い息が吐き出されていた。
「思い出したんか?」
「何がだ?」
「何がやない。・・・日本に久しぶりに帰って来たんや。・・・誰か逢いたい奴おらんのか?家族とか、・・・女とかな。」
「・・・詮索屋は嫌われるんじゃねえのか?」
「アホ。それとは違うわ。考え込んどったから聞いたまでや。」
「ふーん。話は変わるけどよ、お前に銃を向けられてから一年。・・・早いもんだな。」
神童たちに始めて出逢った頃を思い出す。東南アジアへの出張。重要機密を狙った神童たちラグーン商会に誘拐され、挙句の果てには会社に見殺しにされそうになった。それから自分は日本を捨てて、そのまま自分を誘拐した連中と共に、嵐のようなビジネス稼業に毎日を過ごしていた。命を危険に晒されたことも幾度無くある。正直、良く生き延びられたものだ。強運か悪運か定かではないが。
過酷な環境の異国で暮らして一年、長いようで短いような半端な時間。
それでも。
「どういうわけだろうな。ここは、俺の良く知る場所のはずなのによ・・・。」
まるで、知らない場所のようだ。・・・どうも落ち着かない。何故?
「・・・誰かおるなら、連絡くらい入れてやらんかい。ワレはまだ後に手が回っとらんのや。こんなことやっとったら、いずれなァ。」
空気銃が弾け、4個目の景品を倒す。その刹那、神童の脳裏に浮かんだのは。
硝煙の匂いと、荒れた部屋の様子。暗い部屋と、破れたカーテンから差し込む僅かな光。目の前に広がる血溜まりと、死体。幼い自分の小さな手に握られた、銃の重さ。
「・・・帰れる価値はあると思うで。ワイから見ればな、ワレん家は普通の家や。盗みも殺しもせんでここまで生きて来たクセにな。贅沢言いよってアホが。」
神童の変化に気づかない雄根は、その質問におどけるように答えた。
「まともとは言えねえよ。だってよ、よりによってお前らとつるんでんだぜ?」
神童がこちらを振り向く。罵声か鉄拳が飛んでくるかと身構えたが杞憂に終わった。ーーー何故なら出会ってから今まで見たことも無いような、悲しそうな表情で雄根を見ていたからだ。
それも一瞬で、神童は再び空気銃を手に取ると、一等賞の景品に向けて撃つ。命中したはずのそれは、揺れただけで倒れることはなかった。
「ちっ。重り突っ込んどるな。イカサマしよって。」
屋台にむきになることもなかろうに、神童は雄根が止めるのも聞かずに身を乗り出すと、倒れなかった景品を空気銃の先で落とす。
「お客さん、それは無効だよ。ズルはいかんよズルは。」
神童の様子を見ていた屋台の親父は、速攻で無効を言い渡した。
「何やとコラァ!!言いがかりつけよってこの!!ワレが先にイカサマやっとるやろアホンダラァ!!」
「やめろ神童!!よせって!!お前一体幾つだと思ってんだよ!!大人気無ぇぞ!!」
屋台の親父にブチ切れた神童を、雄根は制止しようと突進する体を引き寄せるように抱え込もうとした。だが、激情に駆られた人間の力は半端ではなく、自分より若干細身の体格でも信じられない程の暴れぶりだ。冗談ではなく、押さえ込むのに精一杯だ。その間にも神童はヒートアップし、屋台の親父と殴り合いになる勢いで怒鳴っていた。
「加縫・・・?」
「お客さん。・・・すまねぇが。」
「え・・・?」
「何やワレ!?部外者はすっこんどれ!」
縁日の光に照らし出されて、雄根や神童より二周りは大きい体が暗闇から姿を現した。
「松の内だろ。みんな楽しくやってんだ。・・・喧嘩やりてえなら他所でやってくれよ。」
「加縫!せめて敬語使えよ・・・!」
長身体躯の男の傍には、全く正反対のーーー詰襟学生服とコートの、小さな少年が心配そうに男を見上げていた。一つに結った長い髪が、夜風に揺れて、流れている。
爆破事件と縁日の中、役者は揃う。
四人は、出会った。
続きマース。
神童は子供の表情で、屋台の的打ちを楽しんでいた。こいつ幾つだよと内心突っ込みを入れながらも、夢中でたこ焼きを頬張っていては人の事を言えないが。
タイでの神童の字は、「トゥーハンド。」両手にべレッタM92カスタムを持つ、鬼人の如き凄腕のガンマン。
本職のガンマンが玩具の銃で心底楽しそうに遊んでいる様はシュール以外の何者でもない。左手で空気銃を扱うのを見て、こいつ左利きなのかと雄根は思った。初めて知った、神童の本当の利き腕。
「よっしゃ!3つめや。」
「本職の面目躍如ってとこだな。」
「当然や。ワイを誰だと思ってんねん。ま、こないな店本気出せば、3秒で店閉いやけどな。」
プロは素人には手加減せんとな。と、笑いながら神童は、新しく空気銃にコルクの弾を詰める。ふと黙り込んだ雄根を見ると、何やら思いつめた表情で空を仰いでいた。既に辺りは闇に包まれ、空気は昼の僅かながらの熱を奪い、冬の夜がやってきている。雄根の呼吸に合わせて、白い息が吐き出されていた。
「思い出したんか?」
「何がだ?」
「何がやない。・・・日本に久しぶりに帰って来たんや。・・・誰か逢いたい奴おらんのか?家族とか、・・・女とかな。」
「・・・詮索屋は嫌われるんじゃねえのか?」
「アホ。それとは違うわ。考え込んどったから聞いたまでや。」
「ふーん。話は変わるけどよ、お前に銃を向けられてから一年。・・・早いもんだな。」
神童たちに始めて出逢った頃を思い出す。東南アジアへの出張。重要機密を狙った神童たちラグーン商会に誘拐され、挙句の果てには会社に見殺しにされそうになった。それから自分は日本を捨てて、そのまま自分を誘拐した連中と共に、嵐のようなビジネス稼業に毎日を過ごしていた。命を危険に晒されたことも幾度無くある。正直、良く生き延びられたものだ。強運か悪運か定かではないが。
過酷な環境の異国で暮らして一年、長いようで短いような半端な時間。
それでも。
「どういうわけだろうな。ここは、俺の良く知る場所のはずなのによ・・・。」
まるで、知らない場所のようだ。・・・どうも落ち着かない。何故?
「・・・誰かおるなら、連絡くらい入れてやらんかい。ワレはまだ後に手が回っとらんのや。こんなことやっとったら、いずれなァ。」
空気銃が弾け、4個目の景品を倒す。その刹那、神童の脳裏に浮かんだのは。
硝煙の匂いと、荒れた部屋の様子。暗い部屋と、破れたカーテンから差し込む僅かな光。目の前に広がる血溜まりと、死体。幼い自分の小さな手に握られた、銃の重さ。
「・・・帰れる価値はあると思うで。ワイから見ればな、ワレん家は普通の家や。盗みも殺しもせんでここまで生きて来たクセにな。贅沢言いよってアホが。」
神童の変化に気づかない雄根は、その質問におどけるように答えた。
「まともとは言えねえよ。だってよ、よりによってお前らとつるんでんだぜ?」
神童がこちらを振り向く。罵声か鉄拳が飛んでくるかと身構えたが杞憂に終わった。ーーー何故なら出会ってから今まで見たことも無いような、悲しそうな表情で雄根を見ていたからだ。
それも一瞬で、神童は再び空気銃を手に取ると、一等賞の景品に向けて撃つ。命中したはずのそれは、揺れただけで倒れることはなかった。
「ちっ。重り突っ込んどるな。イカサマしよって。」
屋台にむきになることもなかろうに、神童は雄根が止めるのも聞かずに身を乗り出すと、倒れなかった景品を空気銃の先で落とす。
「お客さん、それは無効だよ。ズルはいかんよズルは。」
神童の様子を見ていた屋台の親父は、速攻で無効を言い渡した。
「何やとコラァ!!言いがかりつけよってこの!!ワレが先にイカサマやっとるやろアホンダラァ!!」
「やめろ神童!!よせって!!お前一体幾つだと思ってんだよ!!大人気無ぇぞ!!」
屋台の親父にブチ切れた神童を、雄根は制止しようと突進する体を引き寄せるように抱え込もうとした。だが、激情に駆られた人間の力は半端ではなく、自分より若干細身の体格でも信じられない程の暴れぶりだ。冗談ではなく、押さえ込むのに精一杯だ。その間にも神童はヒートアップし、屋台の親父と殴り合いになる勢いで怒鳴っていた。
「加縫・・・?」
「お客さん。・・・すまねぇが。」
「え・・・?」
「何やワレ!?部外者はすっこんどれ!」
縁日の光に照らし出されて、雄根や神童より二周りは大きい体が暗闇から姿を現した。
「松の内だろ。みんな楽しくやってんだ。・・・喧嘩やりてえなら他所でやってくれよ。」
「加縫!せめて敬語使えよ・・・!」
長身体躯の男の傍には、全く正反対のーーー詰襟学生服とコートの、小さな少年が心配そうに男を見上げていた。一つに結った長い髪が、夜風に揺れて、流れている。
爆破事件と縁日の中、役者は揃う。
四人は、出会った。
続きマース。
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シカゴマフィアタイ支部「フェニックス」の首領である、日系人の九條数真。その血ゆえ彼は日本語も堪能なはずだが、今回渡日に当たってどういう風の吹き回しか、態々通訳を懇意にしているラグーン商会の雄根に要請してきた。
妙な指名に雄根は不審がったが、初顔合わせの面々を一目した途端、九條が見出した自分の利用価値を理解する。いかにも日本とアメリカのその道筋に属する連中に囲まれて、否応にも高まる緊張を和らげるにはもってこいだ。
ーいや、九條の事だ。相手を油断させるための要員扱いなのかもしれない。
当の九條は、上等なスーツに身を包み静かに笑みすら浮かべている。端から見れば育ちの良さそうな美青年だが、本性は猛禽類のそれであることを、ラグーン商会に身を寄せてから、彼らと共闘作戦を幾度も組んできた雄根は嫌というほど熟知していた。
そして、相手の「雄猫組」の若頭と、傍に座る自分より若干年下の青年がこの中でも柔和な印象ではあるが、目の奥の光がそれを裏切る。雄根以外は確かに、その筋のものしか居ないのだ。
歌舞伎町にある、高級クラブの席に向かい合って会合は始まった。堅気の会合でないことは、周囲を屈強な男達が警護している事からも明らかだった。
「今日が初顔合わせですね。遠いところをよくお越しで。こっちがうちの組員です。お名前は・・・。」
重吉建と名乗った、雄猫組を代表してこの席に参加した若頭は、至極丁寧に歓迎の言葉を述べた。
九條の英語での返答を、雄根は同時に翻訳して伝える。
「九條で結構です。我々は長らく東京に本拠を築きたいと思っておりました。ご協力を感謝します。」
「こちらこそ。早速本題に入りますが、お聞きのとおり関東和平会はとにかく外国人を締め出したがっていますからね。・・・あなたがたもそうやって追われた口ですし、ここは一つうちが助け舟を出そうかと思いましてね。」
恩情を盾に利益を得ようとする、いかにもなやり口だ。それが明け透けだったが、九條は構わず話を続け、雄根は訳して伝える。
「雄猫組も、和平会の加盟組織のはずですが?」
投げかけられた質問に、重吉は表情を僅かに顰めながら答えた。
「・・・義理にも限度はありますよ。親の天馬会には、相当な額の上納金を入れてましてねぇ。・・・こちらは和平会にも随分尽くしてきたつもりですよ?それがいつまで経っても義理場で末席とは、少し考え物ではありませんか?」
即ち、今回はうだつの上がらない一組が、勢力拡大を目当てに共闘戦線を張ろうと打診してきたというわけだ。それが例え上の組織への反逆に近い形といえど、活路は既に他は見出せなくなっていると言うことか。
ー正直、危ない橋だ。リスクがあまりにも大きすぎる。
「利害は一致していますよ。重吉さん。」
九條の返答に、内心驚愕しながらも今の自分は只の通訳だ。役目を果たす以外にこの場に必要ない。
「あなたがたは我々の力を背景に勢力の拡大を図り、我々はこの街にもう一つ、新しい灯を点す。そういう事ですね?」
「話が早い。あなた方の力で天馬会を押さえてくれれば、和平会も口出しはできないでしょう。・・・ところで、あなた方はアメリカマフィアでも、一等鉄火場に慣れているらしいと聞きましたが?」
「鉄火場」という単語を聞いた途端に、九條はどこか嬉しげに答えた。
その笑みを見た雄根は、背中を嫌な汗が流れるのを感じる。この笑みを見せた時の九條は。・・・戦火に身を投じる歓喜に狂っている本性を見せ始めているからだ。戦争中毒者の、元軍人の血が。
「・・・我々の、力ですか?この国のそれとは、全く比べ物になりませんよ。それを今から、お見せしましょう。」
九條は懐から携帯電話を取り出すと、番号を押して相手を呼び出した。
「Это я.」
聞きなれない言語が、九條の口から紡がれる。
「これは、一体?」
重吉を始め、雄猫組の面々は通訳者である雄根を見て、何を話しているか問う。だが、雄根も九條が何を話しているのか分からない。そうだ。彼は、確か。
「ロシア語だ。・・・おい、九條!!俺、そんなのわかんねえよ!!」
慌てる雄根を完全無視して、九條は淡々と受話器の向こう側と会話をしていた。いや、会話ではない。口調からして、命令。言語が分からずとも九條がしようとしている事は、ただ事ではないことが伝わる。
「Все на месте? Хорошо. ・・・Отлично. Приступайте. 」
ーーー九條が電話を切るのと、地を震わす爆発音と悲鳴が響き渡ったのはほぼ同時だった。
「・・・あなた方、ですか。」
自分たちの入っているビルを爆破されたわけではない。しかし、地震の様な建物の揺れが、近辺で起きた爆破であることを物語っていた。
「そう。天馬会の持つクラブを一軒、手始めに吹き飛ばしました。」
「吹っ飛ばしただと!?バカ野郎!!てめえら何考えてんだ!!」
重吉の傍らの青年が立ち上がって叫んだ。今までの抗争とは常軌を脱した先制攻撃に恐慌状態になったのか。
「酒希!」
怒鳴る青年を重吉が制する。その間にも九條は淡々と語り始めた。
「拳銃で威嚇などお話になりません。初陣で威力を見せ付けます。・・・これが我々「フェニックス」の示威行動です。」
訳している雄根の背中を、一層重くて冷たい汗が流れる。鋭く太い爪の凶器を隠した、肉食の鳥を間近にしているような緊張を感じていた。
「我々は、立ち塞がる全てを殲滅する。・・・そのために此処に来たのですよ?」
言い放って九條は笑った。全ての破壊による快楽を享受出来る歓喜を、そのまま表情に表して。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
タクシーのラジオから、歌舞伎町で起きた爆発事故の様子を伝えるニュースが流れている。無機質なアナウンサーの声は、まるで事件そのものはたいした事が無いような口調だった。
「雄猫組の奴ら、全員揃って腰抜かしとったなァ。」
神童は会合から離れた席で、雄根から奢らせた金で一人酒を飲み、様子を観察していた。一部始終の顛末をおかしそうに語る。
「・・・ったくよ、九條の奴もやりすぎなんだよ。あいつには日本人の血は流れていても、心はそうじゃねえな。」
「そらそうや。忘れたか。奴は戦争さえ出来るんなら、他には何もいらん。そういう奴やで?」
「そうだったな。・・・どうかしてるぜ。何であんなのが大手振って出歩いてんだ。」
ため息をつきながら、雄根は九條の性質を今更疑問に思う。あそこまでの戦争マニアがどういった過程で出来上がるのか。
「ん?おい、小太郎。なんやあれ?」
神童が指差す先には、神社の縁日の屋台が並んでいるのが見えた。規模はそれほどではないが、昔ながらの庶民的で穏やかな風景が広がっている。物騒で殺伐した場所から、古き良き時代そのままの縁日に心和む。
「おっちゃん、ここで降りるで!」
「お、おい神童!!」
神童はいきなりタクシーを止めると、我先に縁日の屋台へ駆け出した。
ちゃっかりタクシー代を雄根に払わせたのは言うまでもなく。
妙な指名に雄根は不審がったが、初顔合わせの面々を一目した途端、九條が見出した自分の利用価値を理解する。いかにも日本とアメリカのその道筋に属する連中に囲まれて、否応にも高まる緊張を和らげるにはもってこいだ。
ーいや、九條の事だ。相手を油断させるための要員扱いなのかもしれない。
当の九條は、上等なスーツに身を包み静かに笑みすら浮かべている。端から見れば育ちの良さそうな美青年だが、本性は猛禽類のそれであることを、ラグーン商会に身を寄せてから、彼らと共闘作戦を幾度も組んできた雄根は嫌というほど熟知していた。
そして、相手の「雄猫組」の若頭と、傍に座る自分より若干年下の青年がこの中でも柔和な印象ではあるが、目の奥の光がそれを裏切る。雄根以外は確かに、その筋のものしか居ないのだ。
歌舞伎町にある、高級クラブの席に向かい合って会合は始まった。堅気の会合でないことは、周囲を屈強な男達が警護している事からも明らかだった。
「今日が初顔合わせですね。遠いところをよくお越しで。こっちがうちの組員です。お名前は・・・。」
重吉建と名乗った、雄猫組を代表してこの席に参加した若頭は、至極丁寧に歓迎の言葉を述べた。
九條の英語での返答を、雄根は同時に翻訳して伝える。
「九條で結構です。我々は長らく東京に本拠を築きたいと思っておりました。ご協力を感謝します。」
「こちらこそ。早速本題に入りますが、お聞きのとおり関東和平会はとにかく外国人を締め出したがっていますからね。・・・あなたがたもそうやって追われた口ですし、ここは一つうちが助け舟を出そうかと思いましてね。」
恩情を盾に利益を得ようとする、いかにもなやり口だ。それが明け透けだったが、九條は構わず話を続け、雄根は訳して伝える。
「雄猫組も、和平会の加盟組織のはずですが?」
投げかけられた質問に、重吉は表情を僅かに顰めながら答えた。
「・・・義理にも限度はありますよ。親の天馬会には、相当な額の上納金を入れてましてねぇ。・・・こちらは和平会にも随分尽くしてきたつもりですよ?それがいつまで経っても義理場で末席とは、少し考え物ではありませんか?」
即ち、今回はうだつの上がらない一組が、勢力拡大を目当てに共闘戦線を張ろうと打診してきたというわけだ。それが例え上の組織への反逆に近い形といえど、活路は既に他は見出せなくなっていると言うことか。
ー正直、危ない橋だ。リスクがあまりにも大きすぎる。
「利害は一致していますよ。重吉さん。」
九條の返答に、内心驚愕しながらも今の自分は只の通訳だ。役目を果たす以外にこの場に必要ない。
「あなたがたは我々の力を背景に勢力の拡大を図り、我々はこの街にもう一つ、新しい灯を点す。そういう事ですね?」
「話が早い。あなた方の力で天馬会を押さえてくれれば、和平会も口出しはできないでしょう。・・・ところで、あなた方はアメリカマフィアでも、一等鉄火場に慣れているらしいと聞きましたが?」
「鉄火場」という単語を聞いた途端に、九條はどこか嬉しげに答えた。
その笑みを見た雄根は、背中を嫌な汗が流れるのを感じる。この笑みを見せた時の九條は。・・・戦火に身を投じる歓喜に狂っている本性を見せ始めているからだ。戦争中毒者の、元軍人の血が。
「・・・我々の、力ですか?この国のそれとは、全く比べ物になりませんよ。それを今から、お見せしましょう。」
九條は懐から携帯電話を取り出すと、番号を押して相手を呼び出した。
「Это я.」
聞きなれない言語が、九條の口から紡がれる。
「これは、一体?」
重吉を始め、雄猫組の面々は通訳者である雄根を見て、何を話しているか問う。だが、雄根も九條が何を話しているのか分からない。そうだ。彼は、確か。
「ロシア語だ。・・・おい、九條!!俺、そんなのわかんねえよ!!」
慌てる雄根を完全無視して、九條は淡々と受話器の向こう側と会話をしていた。いや、会話ではない。口調からして、命令。言語が分からずとも九條がしようとしている事は、ただ事ではないことが伝わる。
「Все на месте? Хорошо. ・・・Отлично. Приступайте. 」
ーーー九條が電話を切るのと、地を震わす爆発音と悲鳴が響き渡ったのはほぼ同時だった。
「・・・あなた方、ですか。」
自分たちの入っているビルを爆破されたわけではない。しかし、地震の様な建物の揺れが、近辺で起きた爆破であることを物語っていた。
「そう。天馬会の持つクラブを一軒、手始めに吹き飛ばしました。」
「吹っ飛ばしただと!?バカ野郎!!てめえら何考えてんだ!!」
重吉の傍らの青年が立ち上がって叫んだ。今までの抗争とは常軌を脱した先制攻撃に恐慌状態になったのか。
「酒希!」
怒鳴る青年を重吉が制する。その間にも九條は淡々と語り始めた。
「拳銃で威嚇などお話になりません。初陣で威力を見せ付けます。・・・これが我々「フェニックス」の示威行動です。」
訳している雄根の背中を、一層重くて冷たい汗が流れる。鋭く太い爪の凶器を隠した、肉食の鳥を間近にしているような緊張を感じていた。
「我々は、立ち塞がる全てを殲滅する。・・・そのために此処に来たのですよ?」
言い放って九條は笑った。全ての破壊による快楽を享受出来る歓喜を、そのまま表情に表して。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
タクシーのラジオから、歌舞伎町で起きた爆発事故の様子を伝えるニュースが流れている。無機質なアナウンサーの声は、まるで事件そのものはたいした事が無いような口調だった。
「雄猫組の奴ら、全員揃って腰抜かしとったなァ。」
神童は会合から離れた席で、雄根から奢らせた金で一人酒を飲み、様子を観察していた。一部始終の顛末をおかしそうに語る。
「・・・ったくよ、九條の奴もやりすぎなんだよ。あいつには日本人の血は流れていても、心はそうじゃねえな。」
「そらそうや。忘れたか。奴は戦争さえ出来るんなら、他には何もいらん。そういう奴やで?」
「そうだったな。・・・どうかしてるぜ。何であんなのが大手振って出歩いてんだ。」
ため息をつきながら、雄根は九條の性質を今更疑問に思う。あそこまでの戦争マニアがどういった過程で出来上がるのか。
「ん?おい、小太郎。なんやあれ?」
神童が指差す先には、神社の縁日の屋台が並んでいるのが見えた。規模はそれほどではないが、昔ながらの庶民的で穏やかな風景が広がっている。物騒で殺伐した場所から、古き良き時代そのままの縁日に心和む。
「おっちゃん、ここで降りるで!」
「お、おい神童!!」
神童はいきなりタクシーを止めると、我先に縁日の屋台へ駆け出した。
ちゃっかりタクシー代を雄根に払わせたのは言うまでもなく。
初っ端からオリジナルのネタでなくて申し訳ございません。まあこの妄想が止まらなくてサイト開設したわけですが(笑)ちゃんと加縫四方のオリジナルネタの話も書きますよ。今一本浮かんでます。
ちなみに元ネタは「黒い珊瑚礁」を英訳した某ガンアクション漫画です。単行本は4巻と5巻あたりの話。先日バラライカ姐さんを九條で妄想したら止まらなくなったと書きましたが、更にロックとレヴィを雄根さんと神童さんに、そして銀次さんと雪緒ちゃんの絆を加縫と四方ちゃんで妄想したら(ry
前置き長くなりましたが読んでくださいな。あと、私は雄根さんと神童さんはどっちが受け攻めと限定はしておりません。読んでいる方の好きなようにしてください。野球やってなかろうが、つじつま合わない設定が出てこようがキャラ変わってようが、流血暴力虐殺満載だろうが(重要)楽しめる方だけ読んでくださいね^^;
「よう、トラか?」
携帯電話の普及で激減した、公衆電話の中で青年は電話をかけていた。設置された場所柄ゆえ、いかがわしいチラシが埃で曇ったガラス一面に貼られ剥がされている。それを見て青年は、今自分がいる所が何処なのかを実感していた。冷えた空気が一層その思いを強くする。
「雄根さんですか!もう日本に着いたんですね。どうです?頼んでいた部品買えそうですか?」
受話器の向こう側は、こことは全く違う亜熱帯の異国。紆余曲折を経て身を寄せた「ラグーン商会。」そこのオペレーターである寅島が電話を受けた。遠距離の国際電話は、瞬く間にテレホンカード数字を消費していく。
「今日はちょっと無理だ。明日探してみる。フェニックスの奴らに付き合わなきゃなんねェからな。」
「そうでした。・・・通訳に使うなら、知った顔のほうが気が休まるって事でしょーね。二週間はこっちもヒマですから、里帰り楽しんでくださいよ。」
「ああ、そうする。・・・しかし、こんな形で日本に戻るとは思わなかったな。」
そう呟くと、青年ーーー雄根小太郎は公衆電話の外の風景を見つめた。
そこに広がるのは新宿の雑踏だった。ALTAの画面が次々と変わり、一方的な情報発信をしている。サラリーマンや若い女性がコートなどの防寒着に身を包み歩いていた。今現在身を置いている異国とは全く異なる風景。久しぶりと言うより懐かしい感覚だった。
「そうですねぇ。・・・ところで、神童さんはどうしてます?」
「奴なら文句ばっかり垂れやがってらあ。だったら着いてこなきゃいいのによ。」
「何言ってんですか。神童さんは雄根さんが心配な・・・。」
「おっと、もうテレカ切れる。じゃあな。」
寅島が余計な事を言う前に、雄根はテレホンカードのせいにして一方的に電話を切った。
「何時まで人待たせとんねん!!遅いんじゃボケェ!!」
公衆電話を出て、いきなり関西弁のきつい罵声を食らった。
開口一番の罵声の主ー神童仁志は、不機嫌極まりない表情を隠そうともせず、剣呑な目付きを更に鋭くして雄根を睨みつける。腕組みをしたまま大股で雄根に近づくといきなり一発頭を殴った。
「痛ェ!!神童てめェいきなり何しやがんだ!!」
「こんなクソ寒い中時間も考えんと待たせとるワレが悪い!!見てみい!!雪まで降ってきとるのが分からんのかアホが!!」
そう言われて見上げると、確かに雪がちらほらと舞い降りているのが見えた。
「・・・マジかよ。」
「はァ!?ワレはもうその年で耄碌しとんのかい!!」
「んだとてめェ!!」
雄根は反撃しようと叫んだら、周囲の視線が痛い事に気づく。こんな街中で男二人が罵り合っていたら、下手をすれば警察を呼ばれるだろう。新宿の治安はそういう所だ。
雄根は喉まで出掛かった悪態を必死で飲み込むと、面倒な事にならないうちに神童の腕を掴んで退散する。
「もうええわ!!離さんかい!!」
大分移動した先で、神童は掴まれた腕を振り払うようにして離した。
可愛くねぇ。雄根は内心神童の態度に苛立つ。しかし続きを再開するわけには行かなく、己を宥めて冷静さを取り戻した。
「・・・待ちぼうけ食らわせたのは悪かったよ。」
神童は予想外の謝罪に面食らうと、含み笑いに近い笑顔を浮かべた。
「なら、酒でもおごってもらおか。高いのをな。こう冷えたら酒飲んであったまるに限るわ。」
「一生寝言言ってろ。」
雄根は相手にしただけ無駄だったと悟ると、腕時計を見る。そろそろ集合しないと間に合わない時刻だ。
・・・雪は、刻一刻と次第に激しさを増していった。
今回はここまでー。明日休みなので、四方ちゃんたちが出てくるとこまで書ければいいな。
ちなみに元ネタは「黒い珊瑚礁」を英訳した某ガンアクション漫画です。単行本は4巻と5巻あたりの話。先日バラライカ姐さんを九條で妄想したら止まらなくなったと書きましたが、更にロックとレヴィを雄根さんと神童さんに、そして銀次さんと雪緒ちゃんの絆を加縫と四方ちゃんで妄想したら(ry
前置き長くなりましたが読んでくださいな。あと、私は雄根さんと神童さんはどっちが受け攻めと限定はしておりません。読んでいる方の好きなようにしてください。野球やってなかろうが、つじつま合わない設定が出てこようがキャラ変わってようが、流血暴力虐殺満載だろうが(重要)楽しめる方だけ読んでくださいね^^;
「よう、トラか?」
携帯電話の普及で激減した、公衆電話の中で青年は電話をかけていた。設置された場所柄ゆえ、いかがわしいチラシが埃で曇ったガラス一面に貼られ剥がされている。それを見て青年は、今自分がいる所が何処なのかを実感していた。冷えた空気が一層その思いを強くする。
「雄根さんですか!もう日本に着いたんですね。どうです?頼んでいた部品買えそうですか?」
受話器の向こう側は、こことは全く違う亜熱帯の異国。紆余曲折を経て身を寄せた「ラグーン商会。」そこのオペレーターである寅島が電話を受けた。遠距離の国際電話は、瞬く間にテレホンカード数字を消費していく。
「今日はちょっと無理だ。明日探してみる。フェニックスの奴らに付き合わなきゃなんねェからな。」
「そうでした。・・・通訳に使うなら、知った顔のほうが気が休まるって事でしょーね。二週間はこっちもヒマですから、里帰り楽しんでくださいよ。」
「ああ、そうする。・・・しかし、こんな形で日本に戻るとは思わなかったな。」
そう呟くと、青年ーーー雄根小太郎は公衆電話の外の風景を見つめた。
そこに広がるのは新宿の雑踏だった。ALTAの画面が次々と変わり、一方的な情報発信をしている。サラリーマンや若い女性がコートなどの防寒着に身を包み歩いていた。今現在身を置いている異国とは全く異なる風景。久しぶりと言うより懐かしい感覚だった。
「そうですねぇ。・・・ところで、神童さんはどうしてます?」
「奴なら文句ばっかり垂れやがってらあ。だったら着いてこなきゃいいのによ。」
「何言ってんですか。神童さんは雄根さんが心配な・・・。」
「おっと、もうテレカ切れる。じゃあな。」
寅島が余計な事を言う前に、雄根はテレホンカードのせいにして一方的に電話を切った。
「何時まで人待たせとんねん!!遅いんじゃボケェ!!」
公衆電話を出て、いきなり関西弁のきつい罵声を食らった。
開口一番の罵声の主ー神童仁志は、不機嫌極まりない表情を隠そうともせず、剣呑な目付きを更に鋭くして雄根を睨みつける。腕組みをしたまま大股で雄根に近づくといきなり一発頭を殴った。
「痛ェ!!神童てめェいきなり何しやがんだ!!」
「こんなクソ寒い中時間も考えんと待たせとるワレが悪い!!見てみい!!雪まで降ってきとるのが分からんのかアホが!!」
そう言われて見上げると、確かに雪がちらほらと舞い降りているのが見えた。
「・・・マジかよ。」
「はァ!?ワレはもうその年で耄碌しとんのかい!!」
「んだとてめェ!!」
雄根は反撃しようと叫んだら、周囲の視線が痛い事に気づく。こんな街中で男二人が罵り合っていたら、下手をすれば警察を呼ばれるだろう。新宿の治安はそういう所だ。
雄根は喉まで出掛かった悪態を必死で飲み込むと、面倒な事にならないうちに神童の腕を掴んで退散する。
「もうええわ!!離さんかい!!」
大分移動した先で、神童は掴まれた腕を振り払うようにして離した。
可愛くねぇ。雄根は内心神童の態度に苛立つ。しかし続きを再開するわけには行かなく、己を宥めて冷静さを取り戻した。
「・・・待ちぼうけ食らわせたのは悪かったよ。」
神童は予想外の謝罪に面食らうと、含み笑いに近い笑顔を浮かべた。
「なら、酒でもおごってもらおか。高いのをな。こう冷えたら酒飲んであったまるに限るわ。」
「一生寝言言ってろ。」
雄根は相手にしただけ無駄だったと悟ると、腕時計を見る。そろそろ集合しないと間に合わない時刻だ。
・・・雪は、刻一刻と次第に激しさを増していった。
今回はここまでー。明日休みなので、四方ちゃんたちが出てくるとこまで書ければいいな。
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